医事委員会

医事委員会メンバー

  • 委員長関 純
  • 委  員大塚 一寛
  • 委  員石橋 俊郎
  • 委  員川久保 武生
  • 委  員岩本 健一

選手の体調管理や傷病などの対処について

以下の情報は大分県サッカー協会医事委員会のまとめたものを、同委員会の許諾のもとに掲載するものです。

コンディショニング

コンディショニングには、自分で整えるものと自分があわせるものとの大きく分けて2つ考えられます。栄養面や水分補給などは前者(1)、天候、気温は後者(2)にあたると思います。

コンディショニングの重要性については、最近いろいろな方面で再認識されつつあります。先のアトランタオリンピックでも、サッカーでは男子は管理栄養士を同伴して食事の管理を行なったり、選手村以外のホテルで宿泊をして体調を整えました。女子ではコンディショニングドクターを常同して体重を基にしてコンディションの調整を行なったことなどからも伺えます。

「ドーハの悲劇」は、単にアメリカワールドカップ出場を逃しただけではなく、選手の管理においても悲劇であったといわれています。特に食事に関しては、中東の食事が合わず、日本の選手が韓国の選手からキムチをもらって食べた話や某カップラーメンが主食同様になったりと、大変な状況であったため、その反省に立ち、アトランタではそういった面のサポートをきちんとしてコンディショニングを行なったことが、いろいろな結果につながったことを、当時の山本コーチが先のサッカードクターセミナーでも発言しています。

日本代表に選ばれた選手の中でも、意識の高い者、低い者といて、各チームでの教育についてかなりの差があることを指摘しています。指導者、監督がそういった面 にきちんとした知識を持つことが大変重要視される時代になってきています。

コンディショニング~天候

いつ運動するかはある程度自分の都合で決められますが試合ともなるとそうとも言っていられません。自分で調整がきかないコンディショニングを左右する要素が天候です。天候は思い通りにはいきません。暑さ寒さが厳しいときに運動する際には、特別 な注意を怠ってはならないのはいうまでもありません。サッカーはどんな季節でも行なわれますので、その季節にあわせたコンディショニングが必要です。真夏にはインターハイなどの大きな試合もあり、暑さに対する対処法をきちんと知らなければいけません。かなりの暑さでコンディションを崩すと、ケイレン、水分欠乏や失神を起こし悪くすれば死んでしまうこともあります。逆にひどい寒さの場合も、凍傷や体温低下を引き起こします。

これらの問題は、選手が自分で防がなければなりません。しかし、選手個人ではどうにもできないことも多く、指導者がこういった知識をきちんともつ必要があり、また指導者が選手を守るためにできることもたくさんあります。身体の危険性が高くなるにつれて、一定の順番で警告信号が身体にあらわれます。選手本人、指導者はこういった警告信号を見落とさないようにして不幸な事故を防ぐ必要があります。特に熱中症などでは指導者側も責任を問われて、裁判になる事例も多くなってきています。
正確なきちんとした知識は不可欠です。

[1]暑い日

運動中、筋肉を活動させるエネルギーの70%が熱として出され、実際に筋肉を動かすのに使われるエネルギーはわずか30%にすぎません。運動が激しければ、それだけ体は多くの熱を出し、正常なときは、熱は心臓で押し出された血液によって暖まった筋肉から皮膚に運ばれます。汗をかいて、その汗が皮膚から蒸発するとき、身体の熱を奪うことによって体温を下げます。暑い上に湿度が高いと、体温を維持する冷却作用がうまく行なわれなくなります。この状態が熱中症です。インターハイをはじめとして、夏場に試合が続けて組まれることも多くなりました。身体特性をきちんと理解して、夏場のスポーツに臨みましょう。

参考資料として
「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(財団法人日本体育協会編)
を用いています。詳細に関しては同書をご覧下さい。

問い合わせ先
財団法人日本体育協会スポーツ化学研究所
〒150-50 渋谷区神南1-1-1岸記念体育館内
TEL 03-3481-2240

またビデオで
「スポーツ活動中の熱中症予防」
というものも日本体育協会で編集されています。上記へお問い合わせください。

■馴化について

暑いところで運動するときには、最初の数日間は特に注意しましょう。暑い中での運動に身体が馴化するには最低7日間を必要とします。暑さに馴れていくに従い、汗腺は運動すればすぐに汗が出るようになります。また汗の塩分が増加します。より多くの血液が皮膚の表面に届くように、皮膚の血管は拡張してきます。このような状態のできるまでの最初の7日間が事故の起こりやすい時期です。

実際に暑いところでの試合には、暑さに対する馴れが必要です。(次項)しかし、暑い中でトレーニングを行なうことは効果は上がらず、あまり意味がありません。トレーニングは逆に涼しいところで行ない、馴れを暑いところで行なうことが大事です。アトランタオリンピックの場合も、1ヶ月前に暑い東南アジアにて汗腺を開く目的で合宿を行ない、一旦日本に帰ってトレーニングを行なっています。

一度汗腺が開いて汗が出やすくなると約1ヶ月間効果 があります。こういった使い分けが大事です。トレーニングと馴れは全く別に考えましょう。

■熱中症について

スポーツをすると熱が作られて体温が上がります(産熱)。しかし、体を冷やす機構により、体温がどんどん上がってしまうことはありません(放熱)。自動車のラジエーターと同じ機構があり、体を冷やしてくれますが、この産熱と放熱のバランスが崩れ、調節機構がうまくいかなくなったオーバーヒートの状態が熱中症です。

運動を継続するため筋肉組織への血流を確保しなければなりませんが、熱放散のために必要な皮膚への血流も十分に確保する必要があります。つまり、体温調節のための皮膚への血液循環と、運動のための筋肉への血液循環との間で血流の奪いあいが起こります。皮膚への血流が増加すると、大量の血液が皮膚にたまってしまい、心臓へもどる血液の量 が減少することになります。そこで、内臓の血管を収縮させ、内臓への血流量 を減少させて、なんとか心臓への血液の戻りが減少しないように調節しています。運動強度が強すぎたり、また環境温度が高すぎたりすると、このバランスが崩れ、その結果 、循環不全や高熱による中枢神経系の機能不全が起こり、生命を脅かすことになります。

熱中症の病型

(1)熱失神

署熱環境下でスポーツを行なうと、体温調節のために皮膚の血管は拡張します。このような皮膚血管の拡張によって起こる循環不全を熱失神と呼び、脈が早くて弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれなどが起こり、一過性の意識喪失を起こすこともあります。

(2)熱疲労

大量の汗をかき、水分や塩分の補給が追いつかないと、脱水や塩分の不足が起こり、熱疲労の原因となります。熱疲労では、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。

(3)熱けいれん

汗をかくと水と塩分が失われます。汗の塩分濃度は血液の塩分濃度より低いため、大量の汗をかくと血液の塩分濃度は高くなります。大量 の汗をかき、水だけを補給した場合には、反対に血液の塩分濃度が低下し、その結果 、足、腕、腹部などの筋肉に痛みを伴ったけいれんが起こるのが、熱けいれんです。

(4)熱射病

体温が上昇し、その結果脳の温度も上昇して体温調節中枢に障害が及ぶと熱射病になります。熱射病では、異常な体温の上昇(40℃以上)と吐き気、めまい、意識障害、ショック状態などを示します。また体内で血液が凝固し、脳、心、肺、肝、腎などの全身の臓器障害を合併することが多く、死亡率も高くなります。

■水分補給

従来わが国のスポーツ界では、ともすれば根性論が先にたち、喉の渇きに耐えるのも一つのトレーニングとされてきました。しかし水分を補給することが運動能力によい結果 をもたらすことが明らかにされてきており、この考えを捨てなくては良い競技成績をあげることはできません。

特に夏の運動時には、適当な水を用意し、飲水休憩をとって脱水を予防すべきです。運動強度が増すほど、消費するエネルギーも増加し体温が上昇するので、休憩の回数を増やし、水分の補給を増やすことが必要です。水分の摂取スケジュールとしては、環境条件によって発汗量 が変化するので、この点を考慮に入れる必要はありますが、競技前に250~500mlの水分をとり、競技中には汗の量 の50~80%を補給することが原則です。できるだけ飲水休憩をとり、自由飲水を奨めることにより、発汗量 の80%の補給が可能です。

摂取する水としては、
(1)5~15℃に冷やした水を用いる
(2)飲みやすい組成にする
(3)胃にたまらない組成及び量にする。

これらの条件を満たすのがスポーツドリンクといえるでしょう。これらをうまく利用することが大事です。水分の組成としては、0.1~0.2%の食塩水が飲みやすく、また3~5%程度の糖を含んだものが吸収に好都合です。摂取した水が胃に止まる時間が長くなるので、これまで水分の補給に否定的な考え方がなされてきました。しかし、適当な組成のものを用いることによりパフォーマンスが上がります。サッカーの場合、運動前に投与することが効率的です。

また素早く吸収させるためには冷えたもの(4℃くらい)の方が有効です。いきなり冷えたものを試合中に飲むとパフォーマンスを落しますので、いつも冷えた飲物を取ることに慣れておくことが大事です。

■ノドの渇きに頼ってよいか

いつ水分をとる必要があるかという判断を、ノドの渇きにだけに頼ってはいけません。脳の中の細胞は、血中の塩分濃度が高くなった場合だけ、ノドが渇いたと知らせる信号を発します。汗の中の塩分の量が増えるほど、血液の塩分濃度が上昇するには長い時間を要し、ノドが渇いたと感じるまでに時間がかかります。ノドの渇きを覚えたときには、すでに少なくとも1リットル近くの水分を失ってしまっています。そうなってからでは、1リットル近い水分不足を運動中に補給することは不可能です。前もって十分な水分を取ることが大事です。意識して水分を多く取りましょう。

■水だけ飲んでよいか

発汗によって失われた水分は、飲水によって補う必要があります。しかし、大量に汗をかいても汗の量と同じだけ水を飲まないといけないかというとそうではなく、それほど飲水しなくてもよいことが古くから知られています。これは、血液の食塩濃度が薄まるためであることが明らかになっています。大量の発汗が起こると、皮膚をなめると塩辛い味がすることからわかるように食塩も失われます。このとき水だけを大量に飲むと、血液の食塩濃度が薄まり、水を飲みたくなるのを抑制します。同時に余分の水分を尿として排泄する反応が起こり、その結果として、体液の量を回復することができなくなります。この状態で運動を続けると運動能力が低下し、さらなる体温上昇の原因ともなります。

■どのくらい飲めばいいかの目安は?

試合前後で体重を測定しましょう。試合の前後での体重の減少は全体重の2%以内にとどめるようにしましょう。(体重60kgの人で1.2kg)それ以上は脱水の状態です。

■熱疲労を予防するには(実際)

(1)暑い気候になる前に、コンディションを整えておくことが肝心。酸素をたくさん含んだ血液を筋肉まで、それから温まった血液を筋肉から皮膚へと送り出すには、心臓が強くなければならない。

(2)気候が急に暑くなったときには、最初の数日間は無理をしない。前述のように身体が暑さに馴化するまでに約1週間かかる。

(3)暑い日には運動を始める数分前と運動中、少なくとも15分おきに100ml飲水をする。

(4)運動中に自分が衰弱したとか疲れたと感じたら、運動を中止して水を100~200ml飲む。水分が不足すれば疲労感が生ずる。

(5)それでもなお衰弱感と疲労感があれば、医師の診断を受けて、熱疲労、塩分欠乏や他の症状をチェックしてもらう。また毎朝体重を計ると良い。食事や運動内容に変わりがないのに体重が減っていれば、脱水作用が次第に進行しており熱疲労に陥っている可能性がある。

(6)食塩の錠剤は絶対に服用しないこと。服用すれば胃を壊し、脱水症状を起こす可能性がある。

■熱中症の救急処置

熱中症では予防が大切です。暑いときには熱中症の兆候に注意し、おかしい場合には早めに休むことです。暑くて気分が悪くなった場合、熱疲労か熱射病か判断に迷うことも十分考えられます。その際注意すべき症状は意識状態と体温です。少しでも意識障害がある場合には、重症と考えて処置する必要があります。

(1)熱失神、(2)熱疲労
涼しい場所に運び、衣服をゆるめて頭を低くして寝かせ、水分を補給すれば通常は回復します。足を高くし、手足を身体に向けてマッサージするのも有効です。吐き気や嘔吐などで水分補給ができない場合には病院に運び、点滴を受ける必要があります。

(3)熱けいれん
生理食塩水を補給します。

(4)熱射病
死の危険のある緊急事態です。

熱射病が疑われる場合には、直ちに冷却処置を開始しなければなりません。冷却は皮膚を直接冷やすより、全身に水をかけてあおぐ方が気化熱による熱放散を促進させるので、放熱の効率がよくなります。

また、頚部、腋下(脇の下)、鼠径部(大腿の付け根)などの大きい血管を直接冷やす方法も効果的です。

またとっさの場合、冷たくなくてもよいので、水筒の水、スポーツドリンク、清涼飲料水等を口に含み、患者の全身に霧状に吹きかけてあげて下さい。全身にまんべんなく吹きかけることにより冷却効果がでます。このような冷却処置を行ないながら、治療のできる病院に一刻も早く運ばなければなりません。

■熱ケイレン

暑い中で長時間運動したときに起こるケイレンは、通常脱水作用が原因です。ケイレンでも運動中と休息中に起こるものは、血液中の塩分(ナトリウム)の減少によります。運動をしているときに多量の水分が失われると、運動中の筋肉に十分な血液が流れ込んでいかなくなり、酸素欠乏に陥り、痛みを伴うケイレンを発生させることになります。

筋肉のケイレンへの対処
(1)ケイレンが起こったら、その筋肉を片手で伸ばし、もう一方の手の指を使って優しく揉む。
(2)ケイレンを防ぐには、暑いときに運動する直前と運動中15分毎にコップ1杯の水を飲むこと。
(3)それでもケイレンが頻繁に起こるときには、血中のミネラル値が低いか、神経の圧迫や血行障害があるか、医師に診てもらう。

<< 救急病院 >>

治療のできる病院を探すのも大変ですが、練習場の近く、また試合場の近くの救急告示病院を知っておきましょう。救急告示病院がありますので、新聞等で確認して下さい。また、日曜、休日当番医の欄に目を通しておくことも必要でしょう。

■日射病

夏の炎天下で頭が照りつけられると、体温が手に負えないほど上昇して意識を失うのが日射病です。

  1. まず最初に筋肉に灼熱感が生じる。
  2. そのあと、ひどく息が苦しくなる。どんなに懸命に呼吸しようとしても、空気を十分に吸えていないような気がする。
  3. 全身が熱くなる。
  4. 次に頭(脳)が損傷を受ける。この段階は体温が40℃を超えたことを示す。運動を中止しないと様々な症状が急激に起こってくる。
  5. 耳鳴りや目の前に黒点が見えるようになる。そして、突然目の前が真っ暗になる。
  6. それから意識を失い倒れる。

■日射病の治療

それまで健康だった人が、熱い中での運動中に突然意識を失ったときは日射病です。すぐに手当をしなければなりません。まず日影に移して、両足を身体よりも高くし、重力でより多くの血液が脳に循環するようにします。次に、どんな方法でも良いから、身体を冷やすことです。これは熱中症と同じです。日射病にかかった人の体温は、常に計って気をつけていることが大切です。38℃まで落ちたら、全ての冷却は中止です。そのまま続けて冷やしていれば体温が低下しすぎてショックを起こすこともあります。冷却中止により体温は再度上昇し、また気を失うことがあります。日射病の患者の場合は意識を回復したからと言っても安心せずに、その後数時間は目を離さないこと。再び意識を失ったときは、冷却を再開しなければならない。いずれにしても医師の診察治療が必要です。

[2]寒い日の運動

県中央近辺では熱いときに比べて、寒いときは比較的トラブルは生じにくいといえます。しかし、冬場に寒い地方で試合することもあり、注意することも必要です。

まず、戸外で問題なのは気温だけではなく、風が軽視できません。風が強くなるほど、身体が感じる寒さも増加します。寒いと感じるのは、皮膚にある寒さ専用の感覚器が働くからです。寒さに最も敏感な皮膚感覚器を備えているのは指、耳、足指です。気温が下がっても、厚いウールの帽子、ミトン、厚いソックス、防水加工のシューズを身につけていれば、寒さは実際の気温ほどひどく感じないものです。

[寒さに対する衣服]

気温が0度以下になると、身体が失う熱の40%以上は頭部から逃げていきます。冬の寒い日にはウールの帽子を耳までおろし、首が隠れるようにかぶることが保温に有効です。しかし、これは試合中にはできません。指はミトンの方が1つの袋の中で指同士が暖め合うので、普通の手袋よりも有効です。さらに寒さがひどいと指、耳、足指をおおうだけでは不十分で、身体自体の保温が必要になります。衣服は身体を暖める働きはなく、身体が作り出した熱を保存するだけです。外側に着る衣服は重い必要は全くなく、断熱性は衣服の厚みによって決まります。衣服を何枚も重ね着した方が、空気が衣服と衣服の間のすき間に閉じ込められます。空気は断熱性において非常に優れています。外側に着るのに最も適しているのは、風と雨を防ぐもので、裏から渇き、濡れた場合にも断熱性にすぐれたポリプロピレンとウールです。風を遮断するために織り目がよく詰まったものがより適しています。これらは、両方とも内側に着るものとしても優れています。皮膚から汗を吸い取り、そうしながら保温の働きをします。理想的な外側と内側の衣服の違いは生地の織り方で、内側の生地は身体から汗を吸い取るために目がゆるいものが、外側の生地は風を通さないために目が詰まったものが適切です。

冬の寒い日で雨が降ったりするとシューズの中まで濡れてしまい、凍傷のような状態を起こすことがあります。皮膚は非常な寒さにさらされると、熱を保持しようと皮膚の血管を収縮させ、皮膚体温は低下します。こういった場合の多くは40℃前後のお湯につけて暖めるようにします。それよりも低い温度の水だと皮膚が暖められるのに時間がかかり、細胞が破壊される可能性が高くなります。できればそのあと水気をしっかり取って乾燥させることが大事です。

スポーツ外傷

怪我をしたときの処置の仕方によって、治癒するまでの時間が大きく変わります適切な処置をして早く復帰することが自分のため、チームのためになります。けがの治し方についてきちんとした知識を持ちましょう。

A.スポーツ外傷総論

怪我をしたときの処置の仕方によって、治癒するまでの時間が大きく変わります。適切な処置をして早く復帰することが自分のため、チームのためになります。けがの治し方についてきちんとした知識を持ちましょう。

■打撲などのケガをしてしまったら、まずRICE(ライス)

  • Rest(レスト) 安静 動かさない
  • Ice(アイス) 冷却 冷やす
  • Compression(コンプレッション) 圧迫 押える
  • Elevation(エレベーション) 挙上 高くする

捻挫、打撲、肉離れなどと思われるケガは、正しく治療すると、痛みと腫れをおさえ、治りが早く、スポーツにも早く復帰できます。

(1)安静
ケガをしたところを無理に動かすと、ケガはひどくなります。副木、弾性包帯、テーピング、三角巾、手拭、タオルなどを用いて患部を動かないように固定してください。

(2)冷却
痛みを軽くする、内出血を防ぐ、炎症をおさえるためには患部の冷却が必要です。コールド・スプレーは一時的に効果はありますが、長時間冷やすためには氷が最も適しています。湿布剤は思ったほど効果はありません。受傷直後は使用しないで下さい。また、切傷などのあるときも使用できません。直接氷をケガしたところに当てると、凍傷ができます。ビニールの袋に氷を入れ、タオルでくるんで患部に当てます。ケガをしてから24~48時間くらい断続的に行なって下さい。

(3)圧迫
圧迫することによって出血と腫れを防ぐことができます。弾性包帯、テーピングを使用して、ケガをしたところを強く圧迫、固定します。圧迫すると血流が悪くなり色が白くなったり、神経も圧迫されることでしびれてきます。こうなったら一旦圧迫をゆるめ、約5分間くらいで色がもとに戻り、しびれがなくなってから再び圧迫します。冷却も同じように繰り返します。

(4)挙上
ケガをしたところを心臓より高くしておくことにより内出血が防げ、しかも痛みが軽くなります。
実際には、

  1. ビニール袋に1/2~2/3くらい氷を入れる。氷が遊ばないよう空気を抜く。
  2. ケガをしたところを中心に、広めの範囲で氷を当てる。
  3. 弾性包帯を氷の上から巻いて氷の固定と患部の圧迫を行なう。
    (圧迫包帯を先に巻いてから冷やす方法もある。)
  4. 血行の状態をみるため時々親指などをチェックする。
  5. 帰宅後も止めないで続ける。

温泉地等で試合があったあとに多いのですが、試合直後に温泉に入ることがありますが、 これは打撲にしても、筋肉の回復にしても、患部を温めてしまうので全く勧められません。長く熱い入浴は、内出血や腫れが増してよいことはありません。試合のあとは、軽いシャワー程度にとどめましょう。

■どのようなケガの場合、病院にかからないといけないのでしょうか。

<< 病院にかかるかどうかの判断 >>

ケガをした部位が変形している場合RICEを行なっても、腫れがひかない、内出血がひどくなる切傷を伴って、それが深かったり大きい場合は、早期に病院を受診しましょう。

外傷を受けた直後でなくても、長く継続する痛み、特に打撲を受けていないのにだんだん強くなる痛みがあるときは病院を受診しましょう。特に成長期の青少年の場合は必ず受診が必要です。

■どんな病院にかかったらよいか?

病院は一般に、打撲・骨折の場合は整形外科を受診することになります。切傷の縫合だけの場合は外科の病院でも構いません。整形外科の受診の場合は、整形外科学会認定スポーツ医名簿等を利用して下さい。しかしながら、試合中のケガにしても練習中のケガにしても、休日や時間外で病院が開いていない場合に多く遭遇します。休日・夜間の当番医が各紙新聞の案内にありますので、それを見て、整形外科の病院があればそちらを受診して下さい。しかしそういった病院がない場合は、救急病院の受診をすることになります。その場合は、必ずしも当直の医師が整形外科医とは限りません。まず電話をして整形外科の診察ができるかどうか確認することが必要でしょう。医事委員会では、各種大会の会場へドクターを派遣している場合もあります。そういった派遣されているドクターに意見を求めても構いません。

■病院でもらう薬

ケガをした時に使う薬には、
(1)痛み止めの薬(消炎鎮痛剤)
(2)腫れの防止に使う薬(消炎酵素剤)
そして傷がある時には
(3)化膿止め(抗生物質)などがあります。

しかし、薬が全く必要のない場合も多く、例えば打撲や捻挫では、受傷直後から十分にRICE療法を行なえば、痛みと腫れを防ぐことができ、薬を使う必要はありません。薬を使う場合でも痛みが軽くなり、日常生活が楽に送れるようになれば、それ以上あまり長い間薬を飲む必要はありません。おおよそ4日間くらいの服用ですみます。早期に腫れをひかせたり、痛みをおさえたい場合には、薬を積極的に使用する場合もあります。

(1)消炎鎮痛剤
数多くの種類の薬があり、内服薬(口から飲む薬)、座薬(肛門に挿入する薬)、外用薬(貼り薬、塗り薬)などがあります。

A 内服薬(代表的な薬:ロキソニン、ボルタレンなど)
身体の中で効果をあげている時間や強さが薬によって違いがあるために、1日に飲む回数、1回に飲む量に差があります。また胃や腸を荒らさないように食後に飲むものが大部分です。胃が荒れやすい人は、胃薬を併用するようにした方がよいです。処方の際に医師に申し出るようにしましょう。また、内服時には飲酒は禁物です。

B 坐薬(代表的な薬:インテバン座薬など)
飲み薬は体内に吸収されて効果がでるまで時間がかかり、また胃腸障害の副作用が多いので、最近坐薬を使用する場合が多くなりました。使用後すぐに腸から吸収されてしまうので速効性がありますが、肛門の刺激作用で便意が起こり、薬が一緒に排泄されてしまうことがあります。排便後に水で濡らして使うようにしましょう。これらの内服・坐薬は使い方によっては早期に腫れや痛みをとることもでき、翌日また試合のある場合など効果的に使用することも可能です。スポーツ医に御相談下さい。また、これらを使用した場合は飲酒を控えましょう。

C 外用薬
皮膚を通して体内に吸収され、痛みを止めることを目的とした薬です。

○貼り薬
湿布薬、パップ剤などといわれており、スポーツのケガには最も多く使われています。
1)患部を冷やすため
2)血流を良くしてコリや筋肉の張りを取るため
3)痛みを取るため
とそれぞれ異なった効果の薬があります。ケガの直後から1)の冷却の目的で貼り薬を使っている場合が多くみられますが、冷却効果は氷にはかないません。まず患部の冷却を氷で行なった後に使用して下さい。

○塗り薬
鎮痛作用、抗炎症作用、腫れを防止する作用があります。受傷直後に使用するよりも患部を良く冷やしたあとに補助的に使用するものです。筋肉の使いすぎによるスポーツ障害の場合にはよく使われており、マッサージ効果も期待できます。

使用に際しては以下の注意事項を守ってください。

★外用薬は、キズ、擦過傷のあるケガには使用しないで下さい。外用薬は、湿疹、発疹(カブレ)のある場所、または外用薬によって皮膚が赤くなったり、かぶれたときには使用しないで下さい。

(2)消炎酵素剤
ケガをすると内出血による腫れ、炎症による腫れが起こり、痛みが強くなったり、回復も遅くなります。このためにケガをした直後には、これをおさえるための薬を使用します。多くの場合、痛み止めと腫れをおさえる薬の両方を同時に使っています。

(3)抗生物質
すり傷、切傷など化膿が心配な場合やすでに化膿している場合に用います。この薬は自分の判断で飲むことを止めたり、全く飲まなかったりすると、傷の状態が悪くなったり、回復が長引いたりしてしまいます。必ず医師の指示通りに飲んで下さい。

4)ケガに関して考えて欲しいこと
青少年の指導者に特に注意して欲しいことは、根性を養うことと、痛みを我慢することは全く別の問題であるということです。

5)試合直前の痛みどめの注射に関して試合が近づくと、痛くて困るから痛みどめの注射をうってほしいと希望する人がいます。これはあくまでも間違った考えだということを認識して下さい。痛みは人間が生きていくために必要な防御反応です。痛みがあるため、病気やケガが起こっていることがわかるのです。スポーツでの使いすぎ(スポーツ障害)で痛みが出るのは、身体がこわれていることを教えてくれているのです。ですから、痛みだけを注射で取ったとしても、ケガが治ったわけではありません。時には痛みを感じないため、さらに使いすぎてむしろ悪化させてしまうこともあります。基本的には痛みどめの注射は避けるのが賢明です。

■青少年の継続する痛みについて

特に成長期の子供に多いのですが、捻ったとか、打撲したことがないのに、練習をすると、腰、膝、スネ、足などが痛くなり、最初は我慢できる程度の痛みがだんだん強くなってきたために、スポーツが十分できなくなることがあります。1~2週間スポーツを休むと痛みは楽になりますが、スポーツを再び開始すると、例えば、腰が伸びにくい、膝が曲げにくい、膝が痛くて階段の昇り降りも辛くなったといった状態で、日常生活動作にも痛みがあり不自由になってくるといった場合にはどうしたらよいでしょう。痛みの原因は、スポーツのしすぎによって、特に成長期の子供には多いのですが、幼弱な骨・軟骨・筋肉・ よく治りますが、無理をしてスポーツを続けていると、大きなキズになってしまい、スポーツをやめてからも痛みや関節の動きの悪さなどで苦労することににもつながり、将来のスポーツ活動も制限される原因になります。成長期の青少年の指導者の方は、特にこの点に留意頂きたいと思います。成長の度合は子供によって異なりますので画一的で過度な練習は必ずこういった障害を生みます。少しでも子供が痛みを訴える場合は必ずスポーツ医を受診することが必要です。

治療は、まず安静、そして練習時間、練習方法のチェック、さらにキズの治り具合に応じた痛みが生じない練習メニューの作成になります。痛みが治まるまで、気長に待つのが結局は治るのを早めます。無理をすると逆に回復は遅くなるだけでなく、症状はどんどん悪化していきます。この点を指導者の方が理解し、やりたがる子供をおさえるくらいの気持ちで指導に臨んでほしいものです。

B.サッカーによく起こるスポーツ外傷と治療(各論)

A) 足と足首
B) 下腿(すね)
C) 大腿(ふともも)
D) 膝
E) 骨盤
F) 腰

このようなケガをしたときはどうしたらいいか、各々のケガについて解説します。

A)足と足首

人間の身体を支える足は、26の骨からなります。その足の上にスネにある2つの骨(脛骨と腓骨)があります。関節では骨と骨は靭帯で結ばれていますが、特に足は大変多くの靭帯でしっかり守られています。しかし、足には体重の全体がかかりますし、靭帯が多いこともあって捻挫もよく起こります。

■足首の捻挫=足関節捻挫

足首を内側に捻った場合に起こります。足首の外くるぶしの部分に痛みがあり、その部分が腫れてきます。腫れや皮下出血がなければ、数日間で痛みが取れ、テーピング、サポーター等を用いて競技に復帰できます。腫れや皮下出血がひどいようならば、受診し診察を受けて下さい。時に、足首の外くるぶしにある靭帯(スジ)が切れていることがあります。

治療は
(1)受傷直後はRICE療法を24時間以上行なって下さい。
(2)RICE療法後、歩行が楽にでき、腫れも軽い時には、弾性包帯、テーピングでスポーツ復帰ができます。
(3)しかしRICE療法後も痛みと腫れが強い時には3週間程度のギプス固定が必要です。ギプスを取ったあともテーピングなどで足首を固定してスポーツ再開となります。競技への復帰は受傷後約1ヶ月かかります。靭帯が切れているものをそのままにしておくと、足首の痛みが取れず、捻挫を繰り返すようになります。

■アキレス腱炎、アキレス腱周囲炎

足首を捻ったり、打撲していないのにアキレス腱の部分に痛みを感じ、初めは全力疾走やジャンプなどのときだけ痛みますが、ひどくなると普通 の歩行や階段の昇り降りでも痛みを感じるようになります。治療は、まず安静にすることが基本です。ふくらはぎやアキレス腱のストレッチングや、かかとの部分を少し高くする足底板など試みて下さい。それでも痛みがあるときは、消炎鎮痛剤、湿布等が効果的です。ギプス固定が2~3週間必要なこともあります。

練習再開後は、練習前にアキレス腱のストレッチングを十分に行なって下さい。練習後は、氷、冷水等で約15分間冷やすことが、痛みを軽くしたり、再発予防の上からも有用です。治療をしないで、無理にスポーツを続けると慢性化して、なかなか治りません。時にアキレス腱を切ったりすることがあるので、早めに適切な治療を受けることをすすめます。

■中足骨疲労骨折

繰り返して1ヶ所に無理な負担がかかると骨は折れてしまいます。これを疲労骨折といいますが、走る動作の多いスポーツで特に高校生に多くみられます。使いすぎ、練習のやりすぎによって、第2、第3中足骨に発生することが多いけがです。走っているうちに足の甲(足背部)に痛みが出てきて、我慢していると十分に走れなくなります。足の甲に腫れが出てきて、底を押すと痛みます。痛みのためにかかとで歩くようになります。

治療はとにかく休むことです。約4週間の安静が必要です。歩行は許可します。治療方法として、弾性包帯による足の甲の部分の圧迫固定と足底板という足の裏の土踏まずを持ち上げるものを使用すると、痛みが楽になります。痛みさえ我慢できれば問題はありません。

■有痛性外脛骨

成長期の子供に発生する場合が多く、足の甲の内側に骨の突出がみられ、ここに痛みを訴えます。まず、はいている靴により足の内側が圧迫されていないか確認して下さい。圧迫があるようであれば、その靴はやめて、圧迫を感じない靴に替えましょう。次に、足底板という足の裏の土踏まず(アーチ)を支えるような敷皮を靴に入れるのがよい方法です。湿布、安静などで大半は軽快しますが、何度も再発することもあります。

■足底筋膜炎

足の裏の筋・腱膜の使いすぎが原因で痛くなるケガです。
原因としては、走りすぎですが、もとからその人のもっている足の形態(扁平足など)により足の裏の筋・腱膜に無理な負担が加わることによって痛みを起こしやすくなっていることもあります。足の裏でかかとの部分と土踏まずのところを押すと痛み、足の指を強く反らすと、足の裏が痛むといった症状です。シューズの靴底の減り具合を調べてみて、ヒールウェッジはアーチサポートなど、足の形態により足底板の使用が有効です。受診の際には普段スポーツで使用しているシューズを持参してみましょう。基本的には走りすぎによる痛みですから、休むのが一番よい方法です。痛みが完全に取れるまで2~3週間休むこと。痛みを我慢して無理をしながら走っていると、頑固な慢性的な痛みが続き、稀に手術することになります。

B)下腿

・疲労骨折とシンスプリント(1)疲労骨折
(2)シンスプリント=過労性脛部痛
・ふくらはぎ(腓腹筋)の肉ばなれ
・アキレス腱断裂

■疲労骨折とシンスプリント

中学性、高校生の子供に多発します。スネ(下腿)の痛みを訴えます。

(1)疲労骨折
骨に繰り返しスポーツにより無理な負荷を加えると、骨折してしまうのが疲労骨折です。脛骨に起こる疲労骨折は、

  • ランニングによって起こる、脛骨の上部、下部に発生する疾走型疲労骨折
  • ジャンプによって起こる、スネの中央に発生する跳躍型疲労骨折

の2つのタイプがあります。
疾走型の疲労骨折は1~2ヶ月で軽快しますが、脛骨中央に発生する跳躍型の疲労骨折は、なかなか治りません。スネの外側の細い骨(腓骨)にも疲労骨折が発生し、上部と下部が好発部位です。ウサギ跳び、ランニング、ジャンプの運動の繰り返しで疲労骨折が起こります。

(2)シンスプリント=過労性脛部痛
スポーツ部活動の選手で、シーズン初期の新入部員に多く発生します。スネの内側、下部に起こる痛みをシンスプリントといい、レントゲン写真では骨には異常を認めません。痛みが我慢できればスポーツを続けていても、1~2ヶ月間で治ります。治療については下腿内側の疾走型疲労骨折とシンスプリントは治りやすく、疲労骨折は1~2ヶ月間、シンスプリントは4週間くらいの安静で治ってしまいます。しかし跳躍型の疲労骨折は、一時スポーツを中止すると、一見良くなったようになりますが、スポーツを再開すると再度骨折してきます。良い治療方法がなく、スポーツをやめてしまう選手もいます。
疾走型疲労骨折とシンスプリントは、痛みさえ本人が我慢できれば、スポーツを続けても自然に治ってしまいますが、スポーツ医の診察は必ず受けて下さい。跳躍型疲労骨折はスポーツをやめるか、手術をして骨折部の骨を他の部位の骨と入れ換えるかしないと治りません。そのままスポーツを続けていると、完全に折れてしまうこともあります。

■ふくらはぎ(腓腹筋)の肉ばなれ

肉ばなれは、アキレス腱とふくらはぎの筋肉の移行部に生じることが多く、足首に力を入れて踏み込んだ瞬間にふくらはぎの筋肉がブスッと切れたような感じがします。直ちに冷却し、圧迫包帯を巻き、安静にします(RICE療法)。一般に最低4週間のスポーツ活動の中止が必要です。靴にヒールウェッジ、綿花、スポンジなどを使用し、かかと部分を1~2cm高くして、つま先を極端に外側にすると歩行が楽になります。受傷3~4日後から入浴ができるようになります。足首の運動をゆっくり開始して下さい。約3週間後から軽いランニングが可能となります。

■アキレス腱断裂

疲労がたまった時には、あまり激しい運動をしなくても断裂することがあります。ブチッと音がしたように衝撃を感じますのですぐに分かります。縫合が必要ですので医師の診断を受けてください。

C)大腿部=ふともも

サッカーでふとももの骨(大腿骨)の骨折はあまり起こりませんが、打撲や肉ばなれがよく起こります。

■ふとももの打撲

サッカーでよく起こるケガでモモカンともいわれます。転倒したり、キックされたりした際に起こりますが、直後から打撲と内出血などによる強い痛みのために歩行も不自由となります。
ケガをした直後からRICE療法を確実に行なうことが必要です。その後は、安静にして下さい。指圧、マッサージ、鍼などは絶対にしないことです。間違っても温泉などに入ってはいけません。そして、痛みを我慢して無理に膝を曲げないこと。自然に治るのを待つことです。2~3週間して痛みが取れてきたら、温熱療法、軽いストレッチングを開始して下さい。打撲の程度にもよりますが、4~6週間くらいの治療を必要とします。
初期のRICE療法が行なわれなかったり、早期にマッサージをしたり、早すぎる運動復帰をすると、柔らかい筋肉が骨に変化する場合があります。これを「化骨性筋炎」といって、スポーツ復帰に6ヶ月くらいを要しますので初期の治療が大事です。

■ハムストリングスの肉ばなれ

肉ばなれは瞬間的に筋・筋膜が伸ばされて筋・筋膜の一部分が切れてしまった状態をいいます。高校、大学、社会人に多いケガです。肉ばなれがよく発生する部位は、ふとももの後面、内側上部とふくらはぎの内側上部です。停止している状態から全力疾走に移るときによく発生します。ふとももの後ろにあって、膝を曲げる働きのある筋肉をハムストリングスといい、この筋肉を瞬間的に収縮させようとしたときに、筋・筋膜の一部が切れてしまうケガです。膝を曲げようとすると痛んで、ふとももの後方内側上部を押さえると痛みます。ランニングは不可能となります。急性期は、やはりRICE療法を行ないます。筋肉の断裂、出血の程度によって治療期間が異なります。軽度のものはRICE療法のあと2~3日後から患部の温湿布を行ない、1週間くらいでジョギング可能となります。その後ストレッチや筋力強化を1~2週間行ない競技に復帰します。筋肉が大きく切れたときには、痛み、腫脹が強く、1~4週間はスポーツ不能です。急性期に十分な安静と固定を行なわないと、再び肉ばなれを起こすこともあります。

いずれの場合も、急性期に十分な治療をしないで急に以前のようにスポーツを再開すると、稀に再発を繰り返すことがあります。

D)膝

サッカー選手にとって走る、蹴る、跳ぶなど動きに関わる膝は大事です。膝は、構造的には、ふとももの骨、大腿骨とスネの骨、脛骨の間を結ぶところで、その間にはクッションの役割を果たす、外側と内側の2つに分かれた軟骨である半月板があります。また膝の内側、外側にはそれぞれ靭帯があり、膝の中には十字にクロスしている靭帯があります。これらの靭帯は、膝が前後左右に動きすぎないよう守っています。膝のケガは、放置せずスポーツ医を受診し、しっかりとした治療を受けて下さい。

  • 内側側副靭帯損傷
  • 前十字靭帯損傷
  • 半月板損傷
  • オスグッド病
  • 使いすぎによって起こる膝の痛み

■内側側副靭帯損傷

タックルをされた時など膝が内側にXの字になるような強い外力が加わった時にケガが起こります。この靭帯は膝の安定に大変重要なものです。この靭帯を切った時の症状は、膝の内側に強い痛みがあり、歩くと膝に力が入らない感じがして、膝の不安定感などが出てきます。大変大切な靭帯ですが、手術をしなくてもほぼ完全に治ります。筋力訓練のみで殆どの場合治癒します。重症の場合、装具や4週間程度のギプス固定が必要となったり、靭帯が関節の中に入り込むように切れてしまった場合は手術が必要になることもあります。膝の不安定な状態により、半月板や関節軟骨にキズがつき、歩行、正座、階段の昇り降りで痛みが出ることがあります。

■前十字靭帯損傷

中学生・高校生の女子に多いケガですがサッカー選手でも多くみられます。接触やジャンプの際に、膝を捻ったときに、膝の中にある前十字靭帯が切れてしまうケガです。また自分の筋肉の力によって、接触がない状態でも切れてしまうこともあります。前十字靭帯が切れた時には、何か切れたような音を感じます。直後から歩行不能か、やっと歩けるといった状態です。早期に正確な診断をつけるために、関節鏡(関節内を直接見る内視鏡)が必要です。前十字靭帯が切れている場合、手術が必要です。安静にして痛みが取れても前十字靭帯が切れたままですと、膝がガクガクして方向転換、サイドステップなどのスポーツ動作がうまくできなくなります。このために、半月板(関節軟骨)などにキズがつくことにもつながります。ケガをしてから長い時間がたった場合は、そのまま手術してもくっつかないことがあり、筋膜移植、時に人工靭帯を用いて前十字靭帯を作り直す手術が必要になることがあります。いずれにしてもスポーツ復帰には6ヶ月~1年程度を要します。

この靭帯の損傷はスポーツのケガの中で特に注意を要するものです。膝のケガをした際は放置しないでスポーツ医を受診することをすすめます。

■半月板損傷

膝のケガのなかで比較的多いケガです。半月板にキズがつくときには、半月板だけの場合と、靭帯損傷と合併する場合があります。いずれにしても自然に治ることはありません。

(1)半月板だけのケガ(単独損傷)
膝に捻りの生じた際に起こります。何かはさまった感じで膝が伸びにくくなったり、水がたまったりといった症状が出ます。人によっては数年間も症状がなく、しばらくしてから痛みの出ることもあります。

(2)前十字靭帯損傷に合併した半月板のケガ(複合損傷)
前十字靭帯が切れたときに、一緒に半月板にキズがついた場合、亀裂が大きくなることが多く、痛みが強く起こります。治療は、関節鏡を行なって、キズが新しい場合、キズは縫うとくっつきますので、半月板のキズついた部位を縫合することも可能です。しかし、時間がたっているものが痛み出したということもあり、その場合は縫合してもくっつきませんので手術が必要になります。キズついたところだけを切り取る「部分切除」が行なわれることがあります。手術後約1ヶ月間くらいで、ジョギングが開始できるようになります。前十字靭帯がキズついている場合は、あわせて靭帯の縫合、再建術が必要になります。

■オスグッド病

10歳前半の子供に多くみられます。発育期の子供にみられる特有のスポーツ障害です。この年齢の子供の骨は発育期にあって、未だ幼弱なために、スネの骨の上の部分に膝関節を伸ばすふとももの筋肉の末端である膝蓋靭帯がついています。繰り返し膝を曲げ伸ばしすることで、きたえられた膝を伸ばすスジの力が幼弱な骨より強いため、骨が剥離してきて膝の下が痛みます。この部分の骨が隆起してくることもあります。運動内容の問診、レントゲン写真により診断は楽にできます。

子供の痛みが強いときには、2~3ヶ月間スポーツを一時中止するだけで、痛みは楽になります。また痛みが我慢できる程度でしたら、ふとももの筋肉のストレッチング、練習後のアイシングがよい方法です。痛みさえ我慢できれば、スポーツを続けても問題ありません。痛みが強ければ2~4ヶ月間の安静により、キズのついた骨が治ってしまい、またスポーツが可能となり、将来後遺症の心配はありません。小・中学生で2ヶ月も3ヶ月も練習を休めないという子が多くみられますが、この時期は思い切って練習を休むことが結局はあとあとのためになります。休む勇気も必要です。

■使いすぎによって起こる膝の痛み

(1)外側の痛み(腸脛靭帯炎)
ランニング主体の練習のしすぎからくる痛みです。特にシーズン開始時に痛みが出てきます。特に下り坂のランニングでは痛みが増します。O脚の選手に多いのが特徴です。

(2)お皿の下端の痛み(膝蓋靭帯炎)
ジャンパー膝ともいわれており、サッカー選手にも多発します。練習開始時に痛く、暖まってくると痛みが軽くなる特徴があります。

(3)お皿の周囲、裏側の痛み(膝蓋軟骨軟化症、膝蓋骨亜脱臼)
お皿を上から強く押すと、痛がったり、ゴリゴリ音がしたりします。完全に治るまで時間がかかります。

(4)お皿の内側の痛み(タナ障害)
お皿の周囲の痛みでも、内側だけに痛みがあるケガとして、タナ障害が考えられます。関節の中にある正常な膜(タナ)が、スポーツのやりすぎで関節にはさまって起こる痛みです。頑固な痛みが続くときには、関節鏡を使って手術をして、タナを切除することがあります。

(5)内側の痛み(鵞足炎)
膝の内側の起こる痛みを鵞足炎といっています。鵞足とは、ふとももの後ろの筋肉(ハムストリングス)の腱がちょうど鵞鳥の足のように膝の内側につくので、この部位を鵞足といい、この腱を使いすぎて起こる痛みを鵞足炎といっています。ランニングのやりすぎで起こります。
内側のヒールウェッジを用いたり、ランニングの量を減らし、運動終了後アイスマッサージをしてみましょう。
いずれも練習直後のアイスマッサージ(約15分間)が効果的です。スポーツの現場には、常日頃より氷を用意しておくのが理想です。
多少運動に不自由を感じる場合、痛みの原因調査が大切です。ランニング量をはじめとしてメニューを考え直しましょう。1~2週間の安静が必要です。
ひどい痛みがあるときは、足、膝の形(アライメント)をスポーツ医にチェックしても らって下さい。必要に応じてサポーター、足底板を作ってもらうことも一つの解決策です。
痛みが取れるまで、筋力トレーニング、患部外トレーニングなどを行なって下さい。必ず痛みは取れます。
膝の痛みは、痛みを我慢しているうちに治ってしまう場合と、痛みのために競技ができなくなる場合とがあります。スポーツ医に相談して、膝、足の形態異常をチェックして装具をつけるのがよい方法です。

E)骨盤

骨盤は7つの骨からなり、腸や膀胱などを保護しているほか、背骨を支える筋肉、腹筋、お尻や股関節の筋肉、ふとももの筋肉がついているところなのです。

■上前腸骨棘、下前腸骨棘、裂離骨折

成長期の子供に瞬間的に発生する特有なケガです。上前腸骨棘は、骨盤の骨で腰の横の前方の骨が出っ張っているところです。膝や股を曲げたり、ふとももを外に回す筋肉がついているところです。下前腸骨棘はそれより少し下方にある骨の出っ張りで、この部分に股を曲げる筋肉がついています。成長期ではまだ骨は幼若で、筋肉の強い収縮が起こるとはがれて剥離骨折を起こすことがあります。成長期の選手が、ランニングや短距離疾走、ジャンプ、ボールを蹴ったあとなどに股の付け根に強い痛みを訴え歩けなくなったら、この骨折を疑って下さい。痛みが強く歩行が困難ですから、現場での処置は、股を曲げ、局所にアイシングを行ないます。骨折のズレの程度により、手術の必要な場合があるので、スポーツ医によるレントゲン写真での診断が必要です。骨折のズレの程度が軽ければ、股の関節を曲げた位置で3週間の安静を保つだけで治ってしまいます。手術の必要はほとんどありませんが、ズレが大きい場合は、稀に手術によりスクリューで固定を行なうこともあります。骨折部は約4週間で治ってしまいます。スポーツへの復帰はレントゲン写真で骨折が完全に治ってから徐々に行ないます。

■恥骨結合織炎

最近ではジュビロの中山選手がこれで1年間プレーできませんでした。ストライカーに多くみられます。ひどくなると手術が必要になる場合もあります。先日のサッカードクターセミナーではクラミジアという性行為感染症でもみられるといった話もでていました。原因不明で痛みのとれない場合、そういった方面での治療も必要になってくるかも知れません。

F)腰部

腰を支えているのは筋肉です。腰部のケガの予防には、腹筋、背筋の強化が非常に大事になります。

■腰痛症

一般に腰部捻挫、筋・筋膜性腰痛などといったものを指します。不用意に腰を捻ったりしたときに起こります。長時間の中腰の姿勢でも起こりやすくなります。腰の関節の捻挫であったり、腰背部の筋肉の肉ばなれだったりします。症状は、急激に腰が痛みます。痛みのため腰を前に曲げることができなくなることもあります。腰背部の筋肉が緊張して硬く触れ、押すと痛みがあります。急性期は横になって安静を保つのが一番です。局所湿布、鎮痛剤の服用等の治療により、1~2週間で軽快します。両足を布団の上に乗せて寝たり、膝を曲げて横に寝る姿勢を取りましょう。長時間の同一姿勢、中腰、アグラなどを避け、痛みが取れてから腰背部と腹筋の強化を行ない、スポーツに復帰して下さい。腰背部と腹筋の強化は腰痛の予防にもなります。

放置したまま無理をしてスポーツを続けていると、足に痛みやシビレが走ったりします。あお向けに寝て膝を伸ばしたまま足を上げると、ふとももからふくらはぎに痛みが走るような症状がある場合は、腰部椎間板ヘルニアが疑われますので病院で診察を受けて下さい。

腰痛だけの場合は、安静で治ってしまいますが、痛みが繰り返し起こる場合、椎間板ヘルニア、腰椎分離症が進行している場合などがありますので、用心が必要です。